キバユウ pixiv。 #キバユウ #ポケモン小説100users入り 糸車の紡ぐ夢

#キバユウ 18歳ライン

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ジムリーダーキバナは立派な大人である。 年齢は勿論だが、私よりもはるかに高い背丈や、いつも笑顔で温厚な性格や、ファンサービスも欠かさない余裕や、ジムリーダーとしての仕事ぶりや、辛いカレーだって平気で食べてしまうところも、 私とは違って… 全てが素敵な大人である。 ふと甘口カレーを食べる手をとめて、一緒に食事をしている彼をちらりと見た。 本当は辛口カレー好きなはずだが、今だって私に合わせた甘口カレーをニコニコと頬張っている。 そう、子どもの私に合わせてくれているのだ。 手を止めた私に気づくと「どうした?」と言いながら水を差し出してきた。 水を受け取りながら私は話しかける。 「カレー、甘すぎないですか?」 「オレサマは甘口も好きだぜ」 「ユウリが作ってくれるんだからな」なんて100点満点の答えを言いながら、キバナはまた大きな一口でカレーを食べた。 私は少し照れて小さく水を飲む。 「ついにユウリも甘口を卒業したい気分か?」 「毎回 甘口なわけじゃないんですよ! この前は渋口カレーだって平らげちゃいました」 「おおー、お姉さんやるなぁ」 「む…また子ども扱いしてますね」 ジロリと睨むと「そんなことないって」と私の頭を大きな手でぐしゃぐしゃ撫でた。 そういうところが子ども扱いなのに… そうは思っても好きな人に触れられて嬉しいと思ってしまう単純さが子どもだと思いつつ、私は触れられて少し火照った顔を隠しながら乱れた髪を今日も直すのだ。 [newpage] チャンピオン ユウリは子どもである。 ポケモンバトルではあのダンデも負かすほどの強いトレーナーだが、年齢は勿論のことながら色んなところがまだ少女なのだ。 同世代の友人達と遊ぶ時の無邪気な笑顔も、捌ききれていないファンサービスも、辛口カレーが苦手なところも。 大人の自分とは違う子どもなのだ。 自分だけの時には全く食べない甘口カレーを頬張っていると、ふと少女が手を止めていることに気づいた。 「どうした?」と言いながら水を差し出すと、可愛らしい小さな手でコップを受け取ってくれる。 「カレー、甘すぎないですか?」 「オレサマは甘口も好きだぜ」 「ユウリが作ってくれるんだからな」と言うと、少し照れた様子でユウリは小さく水を口に含んだ。 恥ずかしがり屋な彼女のために、少しくだけた雰囲気にしてみようと会話を続ける。 「ついにユウリも甘口を卒業したい気分か?」 「毎回 甘口なわけじゃないんですよ! この前は渋口カレーだって平らげちゃいました」 「おおー、お姉さんやるなぁ」 「む…また子ども扱いしてますね」 ふふん と自慢げに話す彼女はやはりまだ少女だ。 可愛らしいお姉さん自慢に相槌を打ってやればそれがお気に召さなかったらしい。 口を尖らせてこちらを見る少女の頭を、強引に撫でてやると、少し俯きながら乱れた髪を直した。 少女はまだ知らない。 その恥ずかしそうに火照った顔が年齢よりもずっと大人びた魅力を持っていることを。 そして好意を持たれていることに気づいている狡い大人は、少女のそんな顔を見たくて今日もわざと茶化すのだ。 それに気づかないうちは、 まだ子ども、だな.

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#キバユウ 18歳ライン

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「さっむ!さすがに夜は冷えますね~。 」 特訓という名のポケモンバトルをひとしきり終え、ナックルスタジアムを出ると辺りは暗くなっていた。 吐く息は白く、頬を撫でる風は刺さるような冷たさだった。 「今日は雪降りますかね~。 」 左隣にいるユウリは両手を合わせ、はぁ~と息を吹きかけ手を温めていた。 」そう言って左手をユウリの前に差し出す。 首をひどく下げないと視界に入らないほど小さなユウリは自然と上目遣いで、頭の上にはてなマークが見えてきそうなほどキョトンとした顔をしていた。 「手温めてやるよ。 」 無理矢理ユウリの右手を奪い取り、自分のポケットの中へとしまい込んだ。 自分の半分ほどの手の大きさで、強く握りしめたら壊れてしまいそうなほど華奢だった。 寒さのせいか鼻を赤く染め「キバナさんの手あったかい。 」とくしゃっと笑って見せた。 「ホテルまで送ってやるよ。 予想以上に遅くなっちまったし。 」 「子ども扱いしないでくださいー!」 そうやってブーたれて天邪鬼なところがまたガキ臭い。 でも、その表情にいちいち惑わされる俺もまた大人とは程遠い。 「それに私もうチャンピオンなんですよ!」 エッヘンと鼻高々に言い放つ。 そう、コイツは俺を負かした後もサクッとダンデまで倒してしまった。 チャンピオンになった今も毎日バトルしてポケモンの世話して、ポケモン漬けの生活で俺の入る隙すら与えない。 それでもなんとか関係を切りたくなくて、特訓と称してナックルシティに呼びつけてしまう。 俺も大概だが、ポケモンのこととなるとホイホイとどこにでも一人で行ってしまうコイツもコイツであまりに無防備すぎる。 そうこうしているとすぐにユウリの滞在しているホテルの前に着いてしまった。 ほとんどユウリのポケモンとカレーの話で道中話題は絶えなかった。 左ポケットに入れたこの手を離すのがひどく惜しいと感じた。 「キバナさん、私の部屋寄っていきませんか?チャンピオンになった記念にホテルの方のご厚意でスイートルームに泊まってるんです!ベッドもお風呂もすっごく大きいんですよ!」 目を輝かせ無邪気に言う。 コイツにとってのそれは全く他意のないもので、純粋にスイートルームを見せたいだけなのだ。 ほんとポケモン以外のことはからっきしで、いい意味でも悪い意味でも天真爛漫だ。 そして、左手に感じるこの温もりをなくしたくない俺はその誘いにまんまと乗ってしまう。 ホテルの部屋に入るとそこには何度か見た光景が広がっている。 そう、俺はこのホテルのスイートルームに来るのは初めてじゃない。 最初はジムリーダーになった時、それ以降何度かこの部屋には泊っている。 部屋に入った途端、ユウリの右手は俺のポケットを離れ、その流れでベレー帽を脱いだ。 ポケットの中に残った温かさを感じながら、室内をチョロチョロと動き回るユウリについて回る。 「見てください!お風呂!おっきい!」「見てください!テレビ!大画面です!これでポケモンバトル見たらすごい迫力なんだろうな~。 」「お手洗いなんて二つもついてるんです!」「ソファもこんなに大きくてフカフカ~。 」 絵に描いたような満面の笑み、大振りのリアクションで俺の視線を離してはくれない。 「あと、ベッド!大きくないですか?枕もこんなにいっぱい!」 そう言って、ベッドへとパフンと仰向けに転がった。 その瞬間、ユウリのかおりがふわっと香った。 今にも飛びそうな理性を押し殺して、キングサイズのベッドに対してあまりに小さすぎるユウリの隣に座った。 「一人で寝るにはちょっと大きすぎるんじゃないか?オレ様が一緒に寝てやろうか?ユウリ……。 」 隣で寝転がるユウリに視線を落とすと、口を尖らせ眉間にしわを寄せて難しい顔をしていた。 少し煽って反応を見るつもりだったが、想像以上に嫌がっているのかと今言った言葉の全てを撤回したい気持ちに苛まれた。 「う~ん、キバナさん寝相悪そうだから一緒に寝るのはちょっと……。 イビキもかきそうだし……。 」 そっちかよ。 素で「はぁ~……。 」というため息がこぼれた。 それは呆れもあるが同時に安心感でもあった。 悪い大人を知らない、純粋無垢で無邪気すぎる存在を少しだけ汚したい気分になった。 ユウリの華奢な両手首を押さえ、馬乗りになるようにベッドの上に膝立ちをした。 ユウリは相も変わらず、邪心の欠片もない表情で俺の瞳を覗き込んだ。 本当は全てを見透かされているのかもしれないと思うほど吸い込まれそうな目だった。 「送り狼ってよく聞くだろ。 オレ様がルガルガンだったらユウリはとっくに食われてるぞ。 」 少しは脅しになっただろうか。 これを機に少しでも警戒してくれたほうが俺としても心配がなくなるのだが……。 「ルガルガンは真昼の姿ですか?たそがれの姿ですか?」 呆気に取られて理解するのに少し時間がかかった。 「真夜中の姿だよ。 」 そう答えるとパァッと顔が明るくなった。 「私真夜中の姿のルガルガン見たことないんです!」 ほんとどこまでも調子の狂わされることを平気で言ってのける。 自分の表情が緩むのを感じた。 すると押さえつけていたユウリの左手が動きたそうにピクッとした。 腑抜けたことを言われて興がそがれたため、これ以上何かして脅かす気もないので左手を解放してあげた。 するとその小さな左手はまっすぐに俺の右の頬を覆った。 「キバナさんの頬っぺたあったかい。 右手は十分あっためてもらったから、今度は左手あっためてもらわないと。 」 そう言ってふわっと笑った。 思わず右手でユウリの前髪をくしゃっと上げ、おでこに軽くキスをした。 「オレ様が狼だったらこれだけじゃ済まないからな。 」 耳元でささやくと、ユウリはおでこを手で押さえて赤面した。 少しだけ勝った気分になってしまった。 これでちょっとは男として意識してくれるようになっただろうか。 ベッドからおり、少ししわになっていた服を直した。 「じゃあ、オレ帰るけど、戸締りちゃんとしろよ?狼が出るかもしれないからな。 」 そう言うと、ベッドからガバッと音を立てて起き上がり、ムッとした表情で俺を睨みつけた。 相変わらず顔は赤いままだった。 「狼なら目の前にいるもん!」 口を尖らせプイッとそっぽを向いた。 その表情はチャンピオンとは思えないほどあどけなさが残っている。

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【凄い】ポケモンの「キバユウ(キバナ×ユウリ)」今Pixivで最も閲覧されているカップリングとなる 多分ポケモン史上初

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すぅ、と指先からしみわたるように感覚が戻り、ユウリはまず、自分が寝転がっているシルクのシーツの柔らかさを感じました。 ゆっくりと目を開けば、起きるときにいつも見る、見事なシャンデリアが吊るされた天井がありました。 窓は厚くきらびやかなカーテンが引かれて外の光は全く入って来ませんが、ユウリがすっきりと目を覚ましたということは、今はきっと朝なのでしょう。 ユウリはゆっくりと体を起こし、体をほぐすようにうーんと伸びをしました。 するとその声に反応してか、ベッドの近くの床からぬめー!という鳴き声が上がりました。 「おはよう、ヌメルゴン。 それからムシャーナも」 ユウリがいつも通り挨拶すると、ふわふわと煙を傍で吐いていたムシャーナが傍に寄ってきて、ヌメルゴンはにこーっと笑いながら返事をするようにまた鳴きました。 すると、今度は扉の向こう、廊下の方からこちらに大股で近寄ってくる足音がします。 歩幅の広い足はすぐにユウリのいる部屋の前までたどり着き、こんこんこん、と優しくはっきりとおとないを入れました。 これもいつも通りです。 「どうぞ」 ユウリが入室の許可を出すと、足音の主はそっと扉を開けて部屋の中へ入ってきました。 色の濃い肌をした、とても背の高い男の人です。 ユウリはやさしい心をそのまま映したような、彼の青く光る垂れ目が大好きでした。 「おはようございます、お姫様」 「キバナ、おはよう」 キバナと呼ばれた背の高い男の人は、ユウリに恭しくその高い位置にある首を垂れました。 そしてユウリのベッドの足元に彼女のために持ってきた着替えをそっと置きました。 「お召し物でございます」 「毎日そんなことしなくても私で取りに行けるのに」 「そのようなことで貴女のお手を煩わせるわけにはいきませんよ」 慇懃に、しかし確かに優しさを込めてキバナはユウリに言いました。 ユウリは大切にしてくれているのが分かって、それが嬉しくてついついいつも同じようなことをキバナに言ってしまいます。 「ですが、お着替えまでは手伝うことはできませんので、ご自分でお召しになってください」 「はーい!」 「準備が整いましたらお声かけください。 朝食の用意はすでに整っております」 「さすがー!」 キバナは広い口を結んだままにっこりと笑うと、「廊下で待っております」と一礼して部屋を出ていきました。 ユウリはこの国の王女様です。 小さい頃から、このお城に住んでおりました。 彼女の親である王様とお后様は、ユウリが小さい頃からこの国の外に出ており、まだ帰ってきていません。 ユウリにはいまいちよく分かりませんが、キバナが言うには戦争というもので忙しいらしいのです。 なので、王様とお后様のたった一人の大切な愛娘であるユウリは、騎士のキバナに守られ、育てられながら、ずっと安全なお城の中に居て、仲良く暮らしているのです。 キバナ以外の騎士や召使は、戦争で出払ってしまっていませんが、ユウリはさみしくありません。 何せキバナはたくさんのことを知っていて、たくさんのことをユウリに教えてくれるからです。 そして二人の周りには十二匹のポケモンという召使がいつもそばにいてくれるからです。 召使という言葉を使いましたが、ユウリはどちらかというと彼らを友達のように考えておりました。 着替えを終えて部屋の扉を開けると、言っていた通りドアのすぐそばで待っていたキバナがそっとユウリに大きな手を差し出してきました。 いつものようにユウリが手を取ると、彼女の歩幅に合わせてゆっくりと手を引いて歩き出します。 廊下には所々窓が付いており、そこにはカーテンがかかっていません。 ユウリは外を何気なく見ますが、いつも通り霧が真っ白くかかっていて、白い以外は何もわかりません。 この国の天気はいつも霧なのです。 「今日は何か夢をご覧になりましたか?」 「え?………んーん、多分何も見てない……かな?」 「左様でございますか」 キバナがいきなり不思議なことを聞いてきたので、ユウリは首を傾げながら答えました。 何回思い返してみても夢の内容を思い出せなかったので、多分見なかったのでしょう。 何でそんなこと聞くのかなと思いながらユウリが顔を上げると、優しい垂れ目と目が合い、にこ、とまた笑顔を向けられました。 ユウリは一人で食事を摂るのが嫌なので、キバナにわがままを言って、身分の差はあれど一緒に食卓を囲むことにしています。 なのでテーブルには二人分の食事が並んでいました。 今日の朝ご飯は柔らかく温かいパンと、イアの実のマリネ、身体が温まるヨプの実のスープと、デザートにユウリの好きなモモンの実を剥いたものが丸々ひとつ。 どれもこれもいつも食べている親しみのある美味しさでユウリは幸せな気分でした。 「キバナは騎士なのに本当に何でもできるね!」 「フフ、お褒めいただき光栄です」 「戦争が無くなっても、シェフとして生きていけるわね!」 ユウリは何気ない一言のつもりでしたが、向かいに座っているキバナが、パンを食べようとしていた手を止めました。 「……いいえ、お姫様」 「……?」 「貴女が生きておられる限り、私は永遠に、あなたを守る騎士としてお仕えいたしますよ」 その声がとても真剣そうだったので、ユウリは少し心配になって顔を上げました。 青い目はユウリと目が合うとやはりにこりと優しく笑うだけでした。 [newpage] 食事を終えると、今度はお勉強の時間です。 ユウリは一国のお姫様なのですから、お手本となるような知識は当たり前です。 今日はキバナに連れられて、お城の地下の大きな広間にやってきました。 そこにはお城の中ではありますが、土が敷き詰められており、沢山の植物が生い茂っていました。 窓が全くないにもかかわらず暖かい日差しが降り注ぎます。 「今日もお疲れ様、コータス」 ユウリがあいさつすると、野菜や木の実を育てるために、強い日差しを作っているコータスがふすん、と鼻から息を吐いて返事をしました。 ユウリはキバナから植物の育て方をたくさん教えられました。 霧が深いこの国の気候では、十分な日差しが受けられず植物が外では育たないのです。 なので建物の中に畑を作って暮らしています。 生きるために必要な知識なので、ユウリも必死に覚えました。 「ヨロギの実の特徴は何でしょう?」 「ええーっと、とても柔らかくてすぐ潰れちゃうので、熟したら収穫は早めにする!お水は一日一回で、たっぷりあげること!」 「正解、完璧ですね」 「えへへへ」 ユウリは勉強の成果を口にしながらポケモン達の力を借りて水やりを始めました。 井戸の水はどうやら枯れてしまったらしいのですが、あまごいが出来るヌメルゴンが居るので、キバナもユウリも困ったことはありません。 たっぷり時間をかけて、とても広い畑の面倒をキバナと手分けして全部見ると、すっかりお腹が空いてしまいました。 ユウリがお腹が空いたということは、もうお昼なのでしょう。 二人は畑の端にあるベンチに座って、ぽかぽかと暖かい陽気の中、キバナ特製のサンドイッチを食べて過ごしました。 昼を過ぎると、今日はもう自由な時間です。 ユウリはキバナに連れられて、地下を出ました。 突然冷え込んだのでしょうか、廊下は朝よりも肌寒く、ユウリはふるりと身震いしました。 目ざとくその様子を見つけたキバナは「すぐに暖炉を焚きましょう」と広い応接間へ彼女を連れて行きました。 城の応接間はとても広く、ポケモンと駆けまわって遊んでも困らないくらいです。 しかしユウリはもう走り回って遊ぶような年頃ではないので暖炉のそばでフライゴンを撫でながら本を読んでいました。 城には本がたくさんあります。 ずかんやおとぎ話、ユウリでは分からないような論文などさまざまですが、一番多いのが天気に関する本です。 ユウリは生まれてこのかた霧以外の天気を見たことがありませんので、『青い空』というものを一度でもいいから見てみたいと天気の本を見るたびに思いました。 「『青い空』って、どこにあるのかしら?」 「……さぁ。 少なくともここにはありませんね」 「キバナ、あなたの目よりも青いのかしら?あなたの目より青いものがあるのかしら?」 「……さぁ。 私も見たことが無いので」 入り口のそばで腕を後ろに組んで立っているキバナに聞きましたが、彼はそれしか答えてくれませんでした。 ユウリに何でも教えてくれるとっても物知りなキバナですが、天気の話になるとなぜかいつもこんな風になってしまいます。 知らないというよりは、話したがりません。 まるで知っているのにユウリには教えたくないような、変な態度をとるのです。 ユウリは天気の本を閉じると、ソファーの上に置き、立ち上がって窓の方へと向かいました。 分厚いカーテンが閉まっていて、外の光は入って来ません。 ぺらりとめくってみると、外には朝に廊下で見たような真っ白な霧しか見えませんでした。 暖炉の火がガラスに反射して、うっすらと窓の外を見るユウリが映り込んでいました。 後から足音がして、ガラスにこちらに近づいてくるキバナが見えました。 「風邪をひきますよ」 「あなたが暖炉を焚いてくれたから平気よ」 「……霧しか見えないでしょうに」 「ずっと見てたらいつか『空』が見えるかもしれないと思って」 キバナはそっとユウリの手をカーテンからはがすと、窓を元のように閉めてしまいました。 そしてひょいと簡単にユウリを持ち上げると、元のソファーへ座らせました。 そして今度はドアの前ではなくソファーの後ろでユウリを見下ろしました。 ユウリが見上げるとキバナは青い垂れ目を優しく細めてにっこりと笑いました。 いつもの調子でしたが、今のはなんだが見張られているように感じてユウリは窮屈に思いました。 フライゴンは鳴き声もなく、ユウリの隣でじっとそんな二人を眺めているのでした。 夜になりました。 肌触りの良い温かいベッドにおさめられたユウリの夜の楽しみは、キバナが読んでくれるおとぎ話でした。 お話はひとつとして同じものはなく、小人が出たり、妖精が出たり、時には王子や騎士が悪いドラゴンや悪魔を退治します。 本を滑らかに読むキバナの穏やかな声は、ユウリをゆっくりとまどろませます。 「……そうしてドラゴンの背中に乗った王子は、天を裂いて降ってきた災厄を蹴散らし、お城の中のお姫様を救い出したのでした。 お姫様は王子様と結婚し、幸せに暮らしたということです。 どっとはらい」 本が閉じられて、今日のお楽しみは終わりました。 ユウリはぼんやりとした頭でつぶやきました。 「王子様とお姫様はいいけれど、ドラゴンは幸せになれたのかしら?」 「……さぁ、この本には書かれていませんね」 「せっかく命を懸けて王子様と一緒に悪いものを倒したのに、何もないなんて悲しいわ」 「……………」 キバナは黙って本を置き、席を立とうとします。 名残惜しくて、ユウリは思わず彼の服の端を掴みました。 眠た目を頑張って開けようとしましたが、眠さで思うようになりません。 「私も……王子様と結婚するのかしら」 「……そうですね、きっとそうなりますよ」 「……キバナ」 「はい」 「わたし、あなたが……おうじさまだったら、よかったのに」 ゆっくりと意識が水のように外へ流れて、ユウリは眠りに沈みました。 ムシャーナの吐く煙の香りが、肺に満ちて、何も見えなくなります。 キバナの服の裾を掴んでいた手を、温かく大きな手が優しく掬い上げました。 「私は騎士です。 お姫様」 耳だけはまだはっきりと聞こえました。 キバナは独り言のように続けます。 「王子……王とはすべてを守る者です。 それが出来なかった私は、ひっくり返ったってなれません」 ちゅ、と音がして、ユウリの手に柔らかく温かいものが触りました。 「オレにはひとりを守るので、精一杯だったからな」 静かな懺悔はユウリの意識の表だけをつるりと滑って、何のことか分からないまま忘れてしまいました。 [newpage] すぅ、と指先からしみわたるように感覚が戻り、ユウリはまず、自分が寝転がっているシルクのシーツの柔らかさを感じました。 ゆっくりと目を開けば、起きるときにいつも見る、見事なシャンデリアが吊るされた天井がありました。 窓は厚くきらびやかなカーテンが引かれて外の光は全く入って来ませんが、ユウリがすっきりと目を覚ましたということは、今はきっと朝なのでしょう。 ユウリはゆっくりと体を起こし、体をほぐすようにうーんと伸びをしました。 するとその声に反応してか、ベッドの近くの床からぬめー!という鳴き声が上がりました。 「おはよう、ヌメルゴン。 それからムシャーナも」 ユウリがいつも通り挨拶すると、ふわふわと煙を傍で吐いていたムシャーナが傍に寄ってきて、ヌメルゴンはにこーっと笑いながら返事をするようにまた鳴きました。 すると、今度は扉の向こう、廊下の方からこちらに大股で近寄ってくる足音がします。 歩幅の広い足はすぐにユウリのいる部屋の前までたどり着き、こんこんこん、と優しくはっきりとおとないを入れました。 キバナが入ってきて、挨拶をして、着替えを置いて出て行って、着替えて食事をして、いつも通りでした。 食事の席で、キバナがユウリに聞きました。 「今日は何か夢をご覧になりましたか?」 「え?………あ!見たよ!思い出した!」 「……それは、どんな?」 「えへへ……あのね、外に出る夢なの!」 キバナは黙ってユウリにつづきを促しました。 「『青い空』があるの。 私は歩いてて、ヌメルゴンとムシャーナと、あとフライゴンも一緒。 キバナが向こうにいて、近づくといつもみたいにあなたが手を差し伸べてくれるのよ。 一緒に手をつないで『青い空』の下を歩くの!」 「…………」 ユウリは瞼の裏に見たものを思い浮かべて、ふふふ、と思わず笑いを零しました。 「『青い空』はね、キバナ。 あなたの目と同じ色をしていたわ!」 「左様で、ございますか」 「ええ!とってもきれいだった!」 ユウリはニコニコとキバナに話しました。 何せ楽しい夢だったのです。 しかし対するキバナはどこか浮かない顔をしています。 あれ、どうしたんだろう。 キバナも喜んでくれると思ったのに。 ユウリは首を傾げました。 「どうしたの?」 「……何がです?」 「あまり私の話、面白くなかった?」 「……いいえ、興味深くて。 つい聞き入ってしまっていました」 にこ、とキバナはいつも通りの笑みを浮かべて答えました。 どこか、取り繕うような空気をユウリは感じ取りました。 いつもと違う雰囲気にユウリは心配になって思わず口を動かしました。 「あ、ねぇ!キバナ。 今日は何もない日でしょう?一緒に外へ出てみましょうよ!サンドイッチをたくさん作って、霧が尽きるまで遠くに!そうしたら」 「それはなりません」 キバナはユウリの言葉を途中で遮りました。 硬い声に驚いて顔を上げると、青い目がこちらをまっすぐに見据えていました。 しかし、いつもの穏やかな垂れ目はなく、厳しく吊り上がっていました。 まるで怒っているようで、ユウリはとても焦りました。 「前から申し上げているように、外は戦争なのです。 空なんて見ていられない程危険がたくさんあります。 それに、王様からあなたの身柄だけは絶対に守れと仰せつかっているのです」 「で、でも。 ずっとこのまま城の中にいるなんて私、いやだ」 「ご理解ください。 いくらあなたの命令と言えど、こればかりはどうしても聞けないのです」 いつもはやさしいキバナですが、外のことになると途端に厳しい顔をして、何も言うことを聞いてくれなくなってしまいます。 それは守る守らないの話だけではなく、ちょっとした冗談でも、外のことを話すのは嫌な様子なのです。 「戦争が終わったら、外へ出れる?」 「……はい、戦争が終わったなら大丈夫でしょう」 「いつ終わる?明日?」 「……さぁ、私には見当もつきません」 「私が死ぬまでに、終わる?」 キバナは沈黙で答えました。 なんと言ったらいいか困っているようでした。 ユウリは返事を待ちましたが、一向にキバナが話し出すそぶりはありません。 なのでユウリは言いました。 「キバナ、やっぱり一緒に外に出ましょうよ。 あなたは私をいつでも守ってくれるくらい強いもの。 外に出てもいつもみたいに私を守ってくれればいいわ。 外に出ても私が無事ならきっと王様も怒ったりしないわ」 「いいえ」 キバナは短くはっきりと否定しました。 紅茶の入ったコップを俯くように見下ろして、彼はもう一度「いいえ」と言いました。 「荷が重すぎます、お姫様。 私には、外、に出て。 ……貴女をお守りしとおせる自信がないのです」 ゆっくりと途切れ途切れにキバナは言いました。 まるで注意して言える言葉を探しているようでした。 てこでも動きそうにないと感じて、ユウリはため息をつきました。 「分かったわ。 わがまま言ってごめんなさい」 「こちらこそ。 お力添えが出来ず、申し訳ございません」 話はそこで終わりました。 ユウリが恐る恐るキバナの顔を見ると、その時にはいつも通りの青く優しい垂れ目で、笑顔が返ってきました。 [newpage] 外に出てはいけないと言われると、より一層外へ出てみたくなってしまうのは人の性です。 それはただの村人だろうが、高貴な身分のお姫様だろうが変わりません。 ユウリは自分の部屋に戻って作戦を立てました。 仲良しのヌメルゴンとムシャーナも一緒です。 彼女はベッドに寝そべりながら、お城の地図を広げました。 「お昼ちょっと前になると、キバナは食事の用意をするために厨房に入って手が離せなくなるわ」 お城の応接間近くに食堂があり、そこにキバナはつきっきりになります。 城の入り口から階段をずっと上った結構高いところにありますので、下へ下って行ってもユウリの足音はキバナの耳には届かないでしょう。 「そのすきにちょっとだけお城を出るの。 ……大丈夫、ご飯の前にはちゃんと戻ってくるわ。 『青い空』が見られなくても、ちょっと外見てすぐ戻るから。 一緒について来てくれない?」 ヌメルゴンは困ったように目尻を垂らしていました。 ムシャーナはいつも眠ったような顔をしていますが、もくもくと吐いている煙が嫌そうな色をしています。 「うーん、ふたりがついて来てくれればちょっと安心だったんだけどな……」 ちょっとした散歩のお伴。 悪く言ってしまえば共犯者が欲しかったユウリは、困った顔をしつつも、外は危険だと知っているポケモンたちからしたら嫌なんだろうなと納得もしました。 そのくらいであきらめるほどユウリの好奇心は小さくありません。 誰もついてこないなら、ひとりで行くまでです。 ユウリは戸棚から靴底の硬いブーツを出して履き替え、少し古くなった毛糸の暖かいカーディガンを羽織って人目を忍ぶようにして部屋を出て階段を駆け降りていきました。 上り階段は大変ですが、下る分には疲れもそんなになく、むしろ駆け降りる心地に気分が躍ります。 十二時の鐘で彼らなければならなかった物語のお姫様も、この感覚を楽しんだのでしょうか? ユウリは大きくて豪奢な敷物の敷かれたエントランスを駆けて、大きな城門へたどり着きました。 戦争が起きてからずっと開かずの間になっているその門は、鉄製の大きな閂がされておりました。 所々さびていますが、幸いそれがくっついて取れなくなっているということはありませんでした。 重い閂をなけなしの筋肉で滑り落とすようにして外すと、ユウリは期待に弾む心を落ち着けるために一回深呼吸をしました。 そしてそっと、門の片方を押して開きました。 ぎぃ、と軋んだ音を立てて外の薄い光が差しました。 目の前に広がるのは白。 いつも窓越しに見る景色と全く同じでした。 しかし、窓越しでは感じられない湿った空気と、城の中にはない匂いを感じました。 黒い土、霧の森の木々の湿った枝の香り。 そして空を切る風とそれに運ばれてくる遠く淡い、なにかの匂い。 はっと思わず息を呑みました。 知っている。 とユウリは感じました。 これを、このにおいを私は知っている。 いつか、昔、嗅いだことのある。 ずっと嗅いで育ってきた、外の、冒険の匂い。 ーーー私はこの城から一歩も出たことが無いのに? バタン!と突然大きな音と振動がして、ユウリは我に返りました。 すごい勢いでせっかく少し開いた城門が閉まってしまったのです。 ユウリがしたのではありませんでした。 ぎくりと心臓が大きく跳ねます。 扉を見ている目をゆっくり上に上げると、ユウリの頭上に扉を抑える、大きく浅黒い手が見えました。 さらにその手の腕の方へ視線をずらすと、こちらを見下ろす青く光る目と目が合いました。 目じりはつり上がり、眉間に深いしわが刻まれています。 広い口を噛みしめるようにしていて、いつもは隠れている鋭い八重歯がしっかりと見えました。 とても怒っていると分かる、怖い表情でした。 「キ、」 名前を呼ぶことが出来ませんでした。 言っている最中にユウリの視界がぐるりと回り、背中を強く扉へと押し付けられたからです。 背中にびりびりとした痛みが広がりました。 肩を大きな手が力いっぱいにユウリを握り、離そうとしません。 キバナとは思えぬ乱暴な振舞いでした。 「ひっ」 「城から出るなと、申したはずでしょう」 静かな物言いでしたが、ぐつぐつと煮立つ鍋のような、唸るような、恐ろしい声色でした。 青い目は優しさを微塵も見せず、怒りのままユウリを睨みつけます。 不意に後ろに蠢く影を見つけて、ちらりとユウリはそちらを見ました。 ヌメルゴンとムシャーナです。 ああ、ふたりともユウリの友達の以前にキバナの仲間だった。 とユウリは遅れて思い出しました。 キバナは目を逸らしたユウリを責めるように、ぐっと彼女をさらに城壁に押し付けました。 ユウリは慌てて視線を彼に戻します。 「外は危険です。 そして私一人の力では貴女を守れないとも。 忘れたとは言わせませんよ」 「……あ、わ……私」 「どうして言うことを聞いていただけないのですか」 責めるような言葉は、しかしユウリに弁明を許しませんでした。 キバナはまくしたてます。 「此処には何でもそろっています。 貴女や私、ポケモンたちが何不自由なく生きていける全てが。 あなたのためならなんだって生み出して見せましょう。 畑だって作りましょう。 本だって何度でも読みましょう。 退屈などさせません。 なぜいつもあなたは外に意識を向けるのですか」 「キ、キバナ?」 「外には貴女のためになるものは何もありません。 空も、大地も、何もかも貴女の望むものではありません。 そんなものないのです。 ……そんな世界に、何の魅力があるというのですか。 見たって無駄です。 ですからお戻りください。 城の中で私といるのが最善なのです」 まるで何かを知っているような口ぶりで、キバナは滾々と言い募りました。 ユウリは勇気を振り絞って言い返します。 「でも!私、外の世界を知ってる気がするの……!」 「なにを」 「お城の中にずっといたなら分からない匂いがした!霧の匂い、初めて嗅いだものじゃなかった!」 「…………っ」 「ねぇ、キバナ。 考えたら何もかもおかしいわ。 私、自分の親の王様とお后様の顔を知らないの。 キバナしか他の人を知らないはずなのに、私と同じくらいの年の男の子の顔を、霧を嗅いだら思い出したの」 「姫、さま」 「キバナ、あなた何か知っているのね?私に何か隠しているのね?ねぇ、教えて。 あなたは誰なの?私、私は……本当に国のお姫様なの?」 「あーあ」 キバナは聞いたこともないような落胆の声を上げました。 ぞく、と電流のようにうすら寒さがユウリの足元から駆け上がりました。 キバナの目はもう怒ってはいません。 しかしつり上がったまま、何故か疲れた色を滲ませて、ユウリの顔からゆっくりとユウリの体、足へと視線をずらしました。 そして肩を掴んでいた片方の手をそろりと彼女の太ももに滑らせて、ぐ、と少し力を込めて、確かめるように彼女の小さな膝を触りました。 キバナは、はぁ、とため息を混じらせながら、言いました。 「やっぱ言われた通り、折っとくんだった」 「……え?」 「足」 ユウリはすぐさまキバナの手を振り払いました。 突然動き出した彼女に虚を突かれている隙に、ユウリは彼の拘束を振り払って腕の隙間からするりと抜けて逃げ出しました。 身体を支配する恐怖に駆られるまま、キバナの形をした男から遠くへ離れるように逃げ出します。 「待て!ユウリ、行くなっ!!」 後ろから吠えるようなキバナの声が聞こえましたが、ユウリは言うことを聞くつもりはありません。 今のキバナは、まるで人が変わったようでした。 捕まって本当に足を折られてしまったら思うと、たまらなく恐ろしかったのです。 ユウリは息を切らせながらやみくもに走り回りました。 キバナの大きな歩幅では、きっとすぐに追いつかれてしまいます。 なのでキバナが通れないような狭くて小さい路地を潜り抜けて、隠れようとしたのです。 しかしレンガ壁伝いに狭い道を進んでいる途中、ユウリはおかしなことに気が付きました。 「…………ここ、他のレンガと違う」 まるでレンガの模様の貼り紙が尽きたので新しいレンガを貼り始めたという感じの、レンガの種類とつなぎ目がちぐはぐな場所があったのです。 触ってみるとユウリの手は壁をすり抜けました。 「……!」 向こう側へ抜けられる!そう思いました。 どこにつながっているかは分からないですが、直感がこちらへ行くべきと言っています。 「ユウリッ!!」 振り向くとレンガの隙間から必死にこちらへ手を伸ばす青い目が見えました。 小柄なユウリなら屈んで通れましたが、キバナが通るとなるとかなり時間がかかる通路です。 しかし、相手はキバナ。 油断はできません。 思わず壁の方へユウリは後ずさりしました。 するとキバナはさらに焦ったようにして叫びます。 「ユウリ……!そっちへは行くな!悪いことは言わねぇ……、何もしねぇから戻ってこい!」 いつもの慇懃さをかなぐり捨てた、乱暴な言葉遣いでした。 しかしユウリは不思議と、キバナの言葉はこちらの方がしっくりくるような気がしたのです。 「戻れ……ユウリ、頼む。 今なら間に合う。 お前の苦しむ姿は見たくねぇ……」 許しを乞うような、哀れな声でした。 ユウリは思わず手を差し伸べかけましたが、拳を握って止めました。 キバナの顔が見る見るうちに絶望したようになります。 「キバナ、ごめんね。 でも、私は本当のことが知りたいの。 私が何者であったかを。 外がどんな場所なのかを」 この先に答えがある。 ユウリは確信していました。 縋るようなキバナの視線を振り払うと、彼女はレンガの壁に向かって身を投げ出しました。 「ユウリッ!!」 [newpage] そうしてお姫様を包んでいたやさしい霧は晴れ、 彼女の指に刺さった糸車の針がゆっくりと抜かれていきました。 [newpage] 「えっ……」 『青い空』などそこにはなかった。 見上げたそれは黒くよどみ、時折渦巻くようにしてひたすら黒い雲を生み出していた。 遠くには地面から天を貫く赤い光の柱が何本も立ち、黒い雲を不気味に赤く照らしている。 近くには最早何だったかすら分からない程に朽ちた、たくさんの瓦礫が散らばり、あちこちで山を作っている。 とげとげしく黒ずんだそれらは、まるで城を囲う茨のようだった。 ユウリが目にしたのはそれだけだ。 それだけしか、なかった。 それだけが延々と地平線まで続いているのだ。 ただひたすらに禍々しく、恐ろしい。 まるで地獄のような世界があった。 それがかつてのナックルシティ、そしてガラル地方の現在の姿だった。 「あ、あぁ……」 ユウリは膝をついてへたり込み、顔を覆った。 この光景を、知っている。 ローズが何かを企んでいた。 異変を止めるため、ユウリはホップと共にタワートップへ駆け上った。 そこには一匹のポケモンと、ホップの兄ダンデ、リザードンが居た。 そして、そのポケモンが放った巨大な閃光からダンデはホップとユウリを庇った。 彼自身は誰にも守られることなく、跡形もなく、消し飛んでしまった。 「ああああ、あああああああ!!」 ユウリは目の前に転がっている物体に見覚えがあった。 それは朽ちた盾。 ダンデの死に言葉を失っている二人に、そのポケモンは無情にも同じ光線を放とうとした。 正気に戻るのはホップが早かった。 彼はユウリの名前を叫ぶと、朽ちた盾を構えて、勇敢にもユウリとそのポケモンを遮るように立ちはだかった。 ユウリは二人に守られた。 守られて、二人を犠牲にして、生き残ってしまった。 「あああああああ!!!あああああああっ!!!嘘、嘘だっ!!ホップ!!ホップ!!!」 ユウリは半狂乱になって朽ちた盾を掴み上げた。 その下にも裏にもホップはいない。 自分のために死んでしまった。 自分が殺してしまったも当然だった。 「だから言っただろ、ユウリ。 外にお前の望むものはなんもねぇってよ……」 静かな声が後ろから聞こえ、ユウリは叫ぶのをやめた。 振り向くと後ろには男が立っていた。 オレンジのバンダナに濃紺のパーカー。 ドラゴンタイプのユニフォームを下に来た彼は、騎士であった時と同じ姿かたちをしていたが、もはやユウリの目には別の人間に映った。 「キバナ……さん」 「……全部思い出したみてぇだな」 かつてのこの街のトップジムリーダーは、疲労の色濃い顔でユウリを見下ろした。 「お前は何度記憶を改竄しても、ここに辿り着いちまう。 全く、世話の焼ける姫様だよ」 「ああぁ、あ、キバナさん……ママ、私のママは?マリィは?ソニア……マグノリア博士、ビートくん……みんな、みんなは?!」 現実を目の当たりにした少女に、最早突き通せる嘘はない。 縋るように聞いたユウリに、キバナは残酷な真実をつげた。 ……お前とオレ以外、もう生きている人間は居ない」 少女は喉が裂けんばかりの悲鳴を上げて、そして堰を切ったように泣き出した。 [newpage] キバナがタワートップにたどり着いた時には、もうダンデの姿は確認できなかった。 ムゲンダイナが肋骨に光を集光させているのが見えて、その照準の先に居るユウリが目に入り、反射的に駆けだした。 「ユウリッ!!」 ホップとキバナは同時に彼女の名前を叫び、そして両者とも彼女を守るために動き出した。 ホップは朽ちた盾を構えて彼女の前に躍り出た。 キバナはフライゴンを呼び出してユウリを庇うように抱き寄せた。 「フライゴン!!『まもる』っ!!」 彼の優秀なフライゴンは迅速に主の指示を果たした。 透明な壁は炸裂した途方もないエネルギーの閃光から、キバナとユウリを守った。 しかし、技の範囲はそこまでで、少し離れたところでユウリを守ろうとしたホップには届かなかった。 彼は光をもろに浴び、影が散り散りになって、兄と同様に髪の毛一本も残さず消えてしまった。 光線が過ぎた後、ムゲンダイナは空高く舞い上がり、どこかへ消えてしまった。 キバナは気絶したユウリを抱きかかえて、タワートップから絶望と共に城下を見下ろした。 城だけを無事に残して、それ以外は爆発の衝撃波に巻き込まれたかのように跡形もなく、瓦礫だけの更地になっていた。 ポケモンの住処も、人間のいた形跡も、何もかも根こそぎ薙ぎ払われた世界で、爆心地のたった二人だけが無事だった。 キバナは手の内の少女以外、何も守れなかった。 幼馴染の死を目の当たりにしたユウリは荒れ狂い、泣きわめき、自分を責め、傷つけた。 自殺に及ぼうとする彼女を、キバナは力ずくで抑えつけて止め、死なぬように監視した。 しかし彼女はボロボロになる一方で、キバナ自身も疲労で限界を迎えていた。 唯一自分が守れた少女の心は守ることが出来なかった。 二人して苦しむのであればいっそ心中してしまおうと思った矢先、ユウリの手持ちのムシャーナが、ボールからひとりでに飛び出して彼の前に現れた。 眠ったように穏やかな顔をしているそのポケモンは、ゆらゆらとユウリの前まで近づくと、吐き出した煙をゆっくり嗅がせた。 彼女は力が抜けたようにへたり込み、そのまま小さく寝息を立てた。 さいみんじゅつだ。 「ムシャーナ……」 キバナは慌てて図鑑を確認する。 食べた夢を実体化させることのできる、夢を食うポケモン。 キバナの頭に一つの道が開かれた。 彼はすぐにユウリの手持ち、自分の手持ち、合わせて十二体を呼び出すと、彼らに頭を下げた。 「ユウリの心のために、オレに協力してくれ。 ……頼む」 ポケモンは人に寄り添うが、導くことはない。 しかし信頼している主の願いなら、そして主を大切に思っている人間の願いなら、全力で答えてくれる存在だった。 ムシャーナはユウリが現実で見た悪夢、つまり絶望の記憶を食い、かつて食べた夢で都合のいいものをユウリに与えて記憶を改ざんした。 場所がナックルの城であったためか、目覚めたユウリは自分を城の住人だと思い込んでいた。 キバナは辻褄を合わせるために、ユウリに彼女は姫で、自分はそれに仕える騎士であると吹き込み、そのように振舞って生活を始めた。 一国の姫としての記憶を植え付けられたユウリは、外の残酷な現実を忘れ、かつてのような無邪気な笑顔を見せるようになった。 主人の笑顔を見た彼女のポケモンは、嬉々としてキバナに協力してくれるようになった。 彼らはキバナの指示で城の周りに濃い霧を発生させ、彼女の記憶が戻らないように城を包み、彼女が何か思い出しそうになったり、外へ出ていこうとするそぶりを見せたら、キバナに知らせてくれるようになった。 しかしユウリの挙動を、ポケモンたちだけでは完璧に掌握できるはずもなく、彼女は時間がたつにつれ外に興味を持ち、外へ出ようとするようになった。 それは彼女が抱えた潜在的な罪悪感からか、外へ出て残酷な真実を得るまで止まることはなかった。 そしてその度に絶望したように悲鳴を上げ、自分だけが生き残ったことを責めた。 そう、この光景をキバナが見るのは、これでもう十回を超える。 [newpage] 手で顔を覆い、絶望の慟哭を上げるユウリにキバナはそっと近づいて、後ろから抱きしめた。 自分の行動が何の慰めにもならないと分かっていたが、それでも彼女を形だけでもこの世界から覆い隠して、守ってやりたかった。 「お前は何も悪くねぇよ」 ユウリにとってその言葉は何の価値もないのだろう。 誰に慰められても、ホップとダンデが彼女のために死んでしまったことは紛れもない事実だったのだから。 「誰も悪くなかったよ。 だからもう自分を責めないでくれよ、ユウリ」 それでもキバナは彼女に罪などないと思う。 守られることが罪なのなら、世界中の誰もが皆罪人になるはずだ。 王様は永遠に帰ってこない。 王子様は二度とお姫様を救いに来ない。 二人とも大切なものを守るという意思を果たし、そして立ちはだかった災厄に破れて死んでしまったのだ。 残ったのは彼らの大切なお姫様と、何も守れなかった役立たずなドラゴンだけ。 どうしようもなく荒れ果ててしまった茨の森ような世界で、ドラゴンはお姫様を唯一残された城の中に幽閉して、嘘の夢を見せるくらいしかできなかった。 そしてその夢すらも、ユウリは自力で目覚めようとしてしまう。 どこまでもキバナは役立たずだった。 「キバナ、さん」 しゃくりあげながら、キバナの腕の中の少女は彼の名前を呼ぶ。 せめてこれ以上傷つけないように、やさしく「どうした?」と聞いてやる。 「こんど、私……が、っ。 また外に、出ようなん、て、ばかなことっ……し、したら」 「……うん」 「その、とき。 は、足の、骨……折ってでも、とめて」 「…………」 「おねがい、します」 「………………わかったよ、大丈夫。 あとはオレに任せとけ」 だから安心しろ。 そういうとユウリの強張った肩が、少しだけ緩んだ。 足の遅いムシャーナが、ようやく二人の元まで追い付いてきた。 キバナはそっとユウリの目を手で覆い、もう何も見なくていいようにした。 ようやく『悪夢』が終わる。 「おやすみ、ユウリ。 ……『さいみんじゅつ』」 ムシャーナがキバナの指示を聞いて光を放つ。 ユウリは次の瞬間糸の切れた人形のように脱力した。 キバナは彼女が深く眠ったことを確認してから、ぎゅ、と彼女の薄い身体を強く抱き寄せた。 「馬鹿野郎が……毎回おんなじこと言いやがって……!」 キバナは唸るように悪態をつくと、今度は震えて泣き出した。 泣こうが喚こうが構いやしない。 何せキバナの情けなさを指摘するような人間なんてどこにもいないのだ。 死んでしまって、居ないのだ。 「人の気も知らねぇで……!惚れたやつの足を折るなんて、そんな惨いこと出来るかよっ!」 彼女の足を痛めつけてかりそめの夢を見続けさせるのと、自由な足のまま歩ませて絶望に触れる運命をたどらせるのでは、一体どちらが惨いだろうか? 誰も答えない。 誰もキバナに教えてくれない。 大きな背丸め、鼻をすすって泣く彼の周りには、彼に付き従うポケモンしかいないのだから。 [newpage] そうして糸車はお姫様の指に再び針を刺し、 糸をつむぐようにして、素敵な夢を見せました。 [newpage] すぅ、と指先からしみわたるように感覚が戻り、ユウリはまず、自分が寝転がっているシルクのシーツの柔らかさを感じました。 ゆっくりと目を開けば、起きるときにいつも見る、見事なシャンデリアが吊るされた天井がありました。 窓は厚くきらびやかなカーテンが引かれて外の光は全く入って来ませんが、ユウリがすっきりと目を覚ましたということは、今はきっと朝なのでしょう。 ユウリはゆっくりと体を起こし、体をほぐすようにうーんと伸びをしました。 するとその声に反応してか、ベッドの近くの床からぬめー!という鳴き声が上がりました。 「おはよう、ヌメルゴン。 それからムシャーナも」 ユウリがいつも通り挨拶すると、ふわふわと煙を傍で吐いていたムシャーナが傍に寄ってきて、ヌメルゴンはにこーっと笑いながら返事をするようにまた鳴きました。 すると、今度は扉の向こう、廊下の方からこちらに大股で近寄ってくる足音がします。 歩幅の広い足はすぐにユウリのいる部屋の前までたどり着き、こんこんこん、と優しくはっきりとおとないを入れました。 これもいつも通りです。 「どうぞ」 ユウリが入室の許可を出すと、足音の主はそっと扉を開けて部屋の中へ入ってきました。 色の濃い肌をした、とても背の高い男の人です。 ユウリはやさしい心をそのまま映したような、彼の青く光る垂れ目が大好きでした。 「おはようございます、お姫様」 「キバナ、おはよう」 キバナと呼ばれた背の高い男の人は、ユウリに恭しくその高い位置にある首を垂れました。 そしてユウリのベッドの足元に彼女のために持ってきた着替えをそっと置きました。 「あのね、キバナ」 「何でしょう」 「私、夢を見たの」 「……それは、どんな?」 「分からない。 忘れちゃったのよ。 忘れちゃいけなかった、気がするのに……」 とても大切なこと。 苦しくて悲しいけれど、それでも忘れてはいけないこと。 たしか、そうだったはずなのに。 頭の中で見えないものがつっかえて取れない気分で、ユウリは眉根を寄せました。 「どんなに頑張っても思い出せないのなら、所詮その程度のものだったのでしょう」 キバナにしては珍しく切って捨てるような物言いでした。 驚いてユウリは思わず彼を見ましたが、キバナはいつもと変わらない柔和な笑みを湛えているだけでした。 彼はベッドに居る彼女の傍に寄ると、やさしく頭を撫でて言いました。 「大丈夫、本当に大切なことなら、そのうち思い出せますよ」 青く光る目は、ただひたすらにユウリにやさしい色だけを湛えて、彼女を見下ろしておりました。

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